(1)概要
歯科診療所の自由診療収入や歯科技工所の売上高(課税売上高)等が1,000万円以上となった場合には、基本的には翌々事業年度から消費税の課税事業者となり、消費税の納税義務が生じます。課税事業者となった場合には、計算方式として本則課税方式と簡易課税方式のいずれかを選択できます。本稿では、消費税の計算方式について述べます。
(2)本則課税方式
本則課税方式は、消費税の原則的な計算方式となります。消費税は預り金的な性質を持つとされている通り、計算の仕方としては、預かった消費税額から支払った消費税額を差し引いた金額を納税する形となります。具体的には、売上に係る消費税額から、仕入や消耗品などの経費に係る消費税額を差し引いた金額を納税します。
計算例
- 課税売上高3,300万円、課税仕入高550万円、その他の消費税が生じる経費440万円(いずれも10%税込)
- ①3,300万円×0.1÷1.1=300万円
- ②(550万円+440万円)×0.1÷1.1=90万円
- ③ ①-②=210万円(便宜上、課税売上割合は100%とします)
(3)簡易課税方式
簡易課税方式は、中小企業者の納税事務負担への配慮から設けられている措置であり、基準期間における課税売上高(個人の場合は2年前、法人の場合は前々事業年度の課税売上高)が5,000万円以下である場合に適用できる計算方式となります。課税売上高に対して、課税売上高の事業区分に応じて一定の割合(みなし仕入率)を乗じた金額を控除できる方式となります。事業区分とみなし仕入率は以下の通りです。なお、簡易課税方式は選択届出書を提出することにより適用可能となりますが、本則課税方式に戻すためには一定の制限があります。
第1種事業 卸売業 | 90% |
第2種事業 小売業、農業等 | 80% |
第3種事業 製造業等 | 70% |
第4種事業 その他の事業 | 60% |
第5種事業 サービス業等 | 50% |
第6種事業 不動産業 | 40% |
計算例
- 第5種事業の課税売上高3,300万円(10%税込)
- ① 3,300万円×0.1÷1.1=300万円
- ② ①×50%=150万円
- ③ ①-②=150万円
(4)簡易課税方式における歯科診療所および歯科技工所の事業区分
歯科診療所の自由診療収入や歯科技工所の義歯、補綴物の作成はサービス業等に該当し、第5種事業となります。歯ブラシなどの物品販売は小売業に該当し、第2種事業となります。診療所で使用していた医療機器の売却や金冠など金属の売却はその他の事業に該当し、第4種事業となります。実際の仕入率は考慮されません。
(5)本則課税方式と簡易課税方式の有利判定について
歯科診療所や歯科技工所の経費のうち、多くは人件費になると思われます。人件費については消費税が課税されませんので、課税仕入高とはなりません。そのため、本則課税方式においては、課税売上高から差し引くことのできる金額が限定されます。そのため、事業の内容によって一概には言えませんが、一般的にはみなし仕入率で計算可能な簡易課税方式を選択した方が有利となることが多いと思われます。設備投資等で多額の課税仕入が発生する場合には本則課税方式が有利なケースも考えられます。
*本稿では内容の簡潔さを優先して要件等については詳細に述べていません。納税義務や本則課税と簡易課税の選択に当たっては要件等を詳細に確認し、専門家と検討してください。また、インボイス登録をした場合の特例措置の適用を受けた場合の納付税額は上記と異なります。
税理士法人 和田タックスブレイン 代表税理士
髙田 幸史 先生