歯科医院の先生方の協力を得て私どもが行った経営調査によると、院内に期待できる後継者がいる歯科医院は、全体の25.3%と約4軒に1軒という結果でした。事業承継を現実的にお考えであろう60歳代、70歳代の年齢層においても、それぞれ47.6%、31.3%となっており半数以下にとどまる現状です。さらに、引退後の予定について尋ねた内容では、閉院予定33.8%、親族承継32.5%、勤務医への売却6.3%、M&Aによる事業承継15.0%、その他12.5%という結果でした。飛び抜けて高い比率を示す選択肢がないことから、歯科医院という事業を承継していくことの難しさを表しているように思います。

ご子息に事業を承継する親子診療においては、現院長である大先生と次期院長となる若先生の関係性にすべてが左右される現状です。これまで培ってこられた大先生の経験や実績、一方でこれから主流となる診療を身につけようとする若先生の知識や技術をそれぞれがどう受け入れ合うかが重要であり、院内における役割分担であったり、診療の棲み分けであったりをどう進めるかが事業承継をスムーズに進める上でのポイントでしょう。

令和5年分の、社会医療診療行為別統計によると、歯科の診療行為別にみた1日当たり点数の構成割合をみると、初・再診12.4%、医学管理等14.8%、在宅医療3.4%、検査7.6%、画像診断4.4%、処置19.9%、手術2.6%、歯冠修復及び欠損補綴31.1%、その他行為4.0%となっています。今から25年前の平成10年分の構成割合においては(当時の名称は社会医療診療行為別調査)、初・再診11.2%、指導管理等6.2%、検査4.4%、画像診断3.3%、処置18.8%、手術3.9%、歯冠修復及び欠損補綴48.8%、その他の行為(在宅医療含む)3.4%という結果です。大きく様変わりした診療内容の推移を経験してこられた大先生世代と、今の診療内容が自らの経験のすべてである若先生世代との価値観や方針が、完全合致することは極めて稀であるという前提に立つことは、むしろお互いを補完し合うことができるきっかけにはならないでしょうか。

ご子息や親族に承継者がいない事例も多くありますが、第三者に承継することはビジネスライクに割り切れると感じる反面、承継者の選定に予想以上に時間を要することがあります。また、仲介に立つ業者への手数料も大きなものとなり、気持ちの面などでもなかなか現実的に話しが進まないということも多々あるようです。譲渡する側、譲渡される側双方には、自らに少しでも良い条件で取引をしたいと思う気持ちは当然にありますが、評価をする業者や選択する方法によっては評価額が2倍以上の開きが出る例もあります。歯科医療を本業とする先生方にとっては、事業承継にかかる負担は副次的なものにすぎません。後継者探しや事業承継に困難を極める、あるいは承継への意義を見失うような場合は、歯科医院という業種を承継することに拘らず、いっそ更地に戻してすべてを清算することも選択肢の一つかもしれません。


デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮 氏