働き方改革などにより、時間外労働時間への意識や有給休暇の取得が推進されること、さらには賃金の大幅な見直しなど従業員の労働環境の整備が急速に整いつつある一方、従業員による一方的な退職、つまり何も連絡がないまま無断で退職するケースなども散見されるようになりました。退職届等の書面による意思表示は少なくなり、院長に直接会って退職の意向を伝えることさえ稀なこととなっています。LINEやメールで連絡を入れてくるのはまだよい方で、ある日突然誰とも連絡が取れなくなり音信不通となるケースもあります。

ただし、どのような辞め方をするにせよ、労働基準法では労働者保護の色合いが強いためなかなか損害賠償請求を行う事例までは多くありません。そこで従業員の退職に対する意識づけという意味で、民法第627条一項に規定されている「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」という条項を基に周知する方法があります。事業者側からすれば、退職の意向を確認したのち、次のスタッフを充足させるまでの準備や引継ぎを考えますと、一般的には3か月程度の期間を設定したいところです。それでも、退職を希望する当日にその意向を示し、その後出勤をしなくなる従業員が後を絶たず、事業所が退職の意思を受け入れてしまえば、即日退職も受け入れざるを得ない状況ですから、せめて2週間という民法上の規定は遵守することを求めたいものです。

デンタル・マネジメント・コンサルティング社にて毎年、歯科医院の経営指標として歯科医院の経営実態に関する調査を行っておりますが、その中で就業規則の有無について尋ねた項目があります。令和2年分から4年分までの3年間の経過を見ますと、73.9%→72.7%→74.5%となっており、全体の約4分の3の歯科医院が就業規則を備えている結果です。歯科医院の規模が大きくなるとその割合は約8割にまで高くなりますが、歯科医院の規模に限らずいずれの歯科医院も就業規則を備えて、歯科医院で勤務する上での基本的なルールを定めておくとよいでしょう。就業規則には、必ず記載しなければならない絶対的必要記載事項および、規定した場合に記載しなければならない相対的必要記載事項のほか、事業所で独自に定める任意的記載事項から成り立ちますが、退職の意思を表明する時期や方法などについても就業規則で規定しておくと、労務に関しての一定のルール作りが可能となります。

就業規則を新規に作成するだけでなく、以前から備えている歯科医院においても、労働環境が大きく変化する昨今の状況においては、就業規則の内容と現状が乖離していることがあります。就業規則を有効に活用するために、随時内容の修正を重ね、現状に則した内容を維持することに努めてください。院内体制の整備によって、労務管理を適切にコントロールすることに力を注いでいただきたいと思います。


デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮 氏