全国の歯科医院数を把握する調査に「医療施設調査」があります。厚生労働省が毎月行っているものですが、最新の令和6年4月の調査結果を見ると、歯科医院総数は66,768施設、そのうち個人診療所49,222施設、医療法人16,895施設となっています。歯科医院総数は平成28年度調査による68,940施設をピークに減少に転じていますが、個人・医療法人の内訳をみると、現在は個人診療所が減少し医療法人が増加を続けている状況です。全歯科医院数における医療法人数の比率は25.3%と高まってきていますが、10年前の平成26年調査時点では、個人診療所55,558施設、医療法人12,393施設であり、医療法人の比率は18.1%であったことから、年々その比率は上昇傾向であるといえるでしょう。
医療法人数が増加する動きは、歯科医院一施設あたりの診療収入が大きくなってきている影響もあるでしょう。同じく厚生労働省が2年に1度調査を行っている「医療経済実態調査」(令和5年実施)の資料に基づきますと、個人診療所の平均医業収益は47,958千円から47,190千円へと少し減少しておりますが、医療法人については108,852千円から110,768千円へと1.8%の伸びを示しています。事業承継等により世代交代を果たし医院の若返りが進んでいることや、メンテナンスの仕組みと歯科衛生士の配置が整い定期的に来院する患者さんの確保と対応が進むことにより、医業収入が増加することにつながっているものと考えられます。メンテナンス等に対応するためには、比較的多数のチェアーユニットを設置し、多くのスタッフを擁する必要があることから、必然的に個人から医療法人に組織変更をする必要が生まれているのかもしれません。
歯科医院の運営が医療法人となりますと、健康保険や厚生年金などの社会保険への加入や就業規則の整備、有給休暇の取得管理や昇給、賞与の評価などの労働環境が整っていることが問われます。勤務するスタッフから求められるだけでなく、歯科医院に応募する求職者にとっても医院を選択する重要な要素となります。こうしたことは医療法人に限らず、個人診療所においても規模が大きくなるにつれて、給与体系や昇給・賞与の仕組み、あるいはシフトの組み方、休みの取り方に至るまで、スタッフの処遇に関する細かな取り組みが問われることになります。つまり家業・生業としての運営から離れ、一つの事業としてしっかりとした組織的な医院運営に取り組む必要が生じるということでしょう。
今後、診療所規模が大きくなる傾向が続けば、院長を始めとする歯科医師のほか、歯科衛生士、歯科技工士等の専門職種はより医業活動に専念し、労務管理・計数管理については事務系職種が担うという経営形態が進むかもしれません。院長自身もスタッフとともに組織のルールの中で過ごし、その中で日々の経営判断を行うなど、より組織運営の視点が必要な時代だといえるのではないでしょうか。
デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮 氏