(1)概要
我が国では賃金の上昇が物価の上昇に追いついておらず、経済対策が必要とされています。その一環として、デフレ脱却の一時的な措置として所得税・個人住民税の定額減税を行い、国民の可処分所得を直接的に下支えすることを趣旨として(内閣官房HPより)、令和6年度税制改正で定額減税が実施されることとなりました。今回は定額減税の注意点等をご説明します。
(2)定額減税の事務処理内容
定額減税の事務処理には月次減税事務と年調減税事務があります。月次減税事務とは、令和6年6月1日以後に支払う給与等(賞与を含みます。)に対する源泉徴収税額から、その時点の定額減税額を控除する事務をいいます。年調減税事務とは、年末調整の際に年末調整時点の定額減税額に基づき精算を行う事務をいいます。
(3)月次減税事務の対象者(基準日在職者)
令和6年6月1日現在、給与支払者のもとで勤務している者のうち、扶養控除等申告書を提出している者が月次減税事務の対象となります。転職等により他の給与支払者に扶養控除等申告書を提出した場合には対象から外れることになりますので注意が必要です。基準日在職者に該当しない者は次の通りです。
① 令和6年6月1日以後支払われる給与等の源泉徴収において扶養控除等申告書を提出していない者
② 令和6年6月2日以後に就職した者
③ 令和6年5月31日以前に退職した者
④ 令和6年5月31日以前に出国して非居住者となった者
なお、対象者かどうかを確認する時点で合計所得金額(見積額)は勘案されないため、合計所得金額が1,805万円を超えると見込まれる基準日在職者に対しても月次減税事務を行う必要があります。 また、対象者から1,805万円を超えることが明らかなため定額減税の対象外としてほしいとの申し出があっても実施する必要があります。(実施の有無は選択できません)
(4) その他の注意点等
① 月次減税事務を開始するのは令和6年6月1日以降に支払われる給与又は賞与からとなります。そのため賞与の支払いの方が給与より早い場合は最初に賞与から控除することとなります。
② 定額減税は必ず月次減税事務から行う必要があり、年調減税事務のみの定額減税は認められていません。
③ 青色事業専従者も対象となります。
④ 給与所得者の配偶者で所得が48万円超の場合、配偶者特別控除は適用されますが、同一生計配偶者に係る定額減税の対象外となります。
⑤ 所得が900万円超の給与所得者の所得48万円以下の配偶者は配偶者控除を受けられませんが、同一生計配偶者に係る定額減税の対象となります。
(5) 合計所得金額について
定額減税の対象となるかどうかの合計所得金額の取扱いは以下の通りとなりますので注意が必要です。
① 退職所得(確定申告が不要な場合も加算)・山林所得を含みます。
② 土地建物の譲渡所得については特別控除前の金額となります。
③ 総合課税の対象となる複数の所得がある場合は損益通算後の金額となります。
*年末調整では例年、従業員等に対する還付額が徴収額より多くなる傾向にあります。今回の定額減税により還付額がさらに増加する場合が予想されるため、資金繰りに注意が必要です。
*給与計算で市販の給与計算システム(給与計算ソフトやアプリ等)を使用している場合、計算自体はシステムで行われることが見込まれますが、定額減税の対象者は給与計算時に別途確認してシステムに反映させる必要があります。
税理士法人 和田タックスブレイン 代表税理士
髙田 幸史 先生