人材開発や組織開発のための調査・研究事業を行うある民間企業の調査結果を見ますと、最近の若者(=20代)が仕事を選ぶ上で重視することの内容が、価値観の多様化を反映してか非常に幅広いものへ変わってきていることがわかります。ほんの数年前までは、「希望する収入」「休みの多さ」「職場の人間関係」「仕事とプライベートとのバランス」といった項目の比率が高かったものが、現在はそれらの比率が少し下がり、「個性、能力が生かせる」「職場の将来性」「様々な仕事を経験できる」「働く場所の選択」など、自分の可能性を大切にしたいと思う項目が増えてきているようです。

一方、転職をすることに対しても大きな抵抗はなく、その割合は高くなる傾向にあるようです。「継続して働きたい」と「他の職場へ転職したい」という意向がともに40%ずつを占めており、昨今の転職サイトの充実も相まって比較的容易に職場を変えようとする意識が高まっているといえるでしょう。

歯科医院の現場においてはスタッフ一人一人の影響が非常に大きく、若者の意識そのままに就労と転職を繰り返す状況がますます多くなることは院長の頭を悩ませるばかりだろうと思います。そうした中で、厚生労働省を中心に国が力を入れてきていることの一つが、年収の壁を越えてより多く働ける環境を整備しようとする動きです。年収の壁というのは、それを超えると自らの所得税がかかるようになる103万円の壁、配偶者の扶養から外れ自ら社会保険料を負担するようになる130万円の壁、所得控除の一つである配偶者(特別)控除が満額受けられなくなる150万円の壁などを指すものです。パートで働くスタッフの中には、これら年収の壁を意識して、働く時間や金額の調整を行っている方も少なくないでしょう。各家庭の事情に配慮し就労調整を行っている歯科医院もあると思いますが、今、その壁を越えて、自分で税金を払い、社会保険料を払い、尚且つ実質の手取りを減らさなくて済むだけでなく、むしろ手取を増やせる仕組みが整備されつつあります。ご主人が勤務する会社によっては、家族手当など配偶者の働き方によって支給される手当や項目があるかもしれません。それを含めてなお手取りが増える給与基準を検討し、新たな国の制度も活用しながら、すべての壁を超えて働こうとするスタッフがいるとすれば、それは大きな戦力を得る最善の方法であると考えます。社会保険や有給休暇などの福利厚生に関すること、あるいは賞与や勤務時間など諸条件に関することを整備して、医院の方針をよく理解するスタッフが、より多く働ける環境を目指すことがこれからの大きなポイントではないかと思います。

厚生労働省が進める年収の壁パッケージなどの国の政策に関しては、顧問税理士や顧問社会保険労務士の協力を得て、スタッフ向けのわかりやすい説明と理解を深めるとよいでしょう。おそらく4月5月は多くの離職があったと予想されますが、今後も新たな人材の定着が進まない状況が続くとすれば、方針や考え方を熟知したパートスタッフの力が最大限発揮される取り組みも大切です。


デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮 氏