私の著書である「臨床のツボ42選」は前編15選、中編15選、後編12選からなるが、その中から抜粋して二回に分け、連載2回目はその一つを紹介させて頂きたい。

 まず、我々『臨床医が肝に銘じておかないといけない事は患者さんあっての歯科臨床』である。時間をかけて丁寧に治療を行うことは非常に重要であるが、患者さんは時間を割いて来院されている。患者さんはお金だけでなく、代償として時間も使っているという認識も必要である。長時間待たされた挙句に洗浄だけで終わりとなると、いつかは愛想をつかされる!患者さんは、『治療時間→短、治療回数→少、治療期間→短、』を望んでいる。そのためには1つひとつの手技を早く正確にできないとダメである。歯科治療は職人技の手作業である。決して手を抜く治療をしてはいけない。1つの治療をするにも段取りよく、大胆に攻めるところ、繊細に仕上げるところにメリハリをつけ、正確な治療を心がけるとともに治療時間の短縮を図ろう。『段取り上手は仕事上手』である。さまざまな器具や職人技の様なテクニックを用いて、治療期間を短縮できることはすばらしい。ただし、治療手順を間違うと結局治療期間が余計にかかってしまう。治癒の遅いところや時間のかかる部位から先に進めていくなど、しっかりと治療計画を練って効率よく治療を進めることで、治療時間、治療期間の大幅な短縮が可能となる。そして、『治療のオプションは質も量も必要』である。そして私は『基本治療の延長線上にアドバンスな治療が存在する』と考えている。しかし実際は、アドバンスな治療や補綴物の選択ばかりに気をつかっていないだろうか?すべての治療は基本治療の上に成り立つ。耐震構造を偽装し豪華に建てられた建築物と同じではいけない。基本なくして、応用の上達は絶対にありえない。逆に基本を極めることは、究極のアドバンスと言えるかもしれない。

 『歯科は陸上競技でいうと10種競技』に似ている。1種目が人並み外れていても、他の競技が平均以下であれば勝負には勝てない。患者さんが治療において望むものは多い。開業医はまず全部の治療で70点以上をとるべく、広く知識、技術の研鑽を積むことを忘れてはならない。インプラント治療は予知性も向上し、幅広く臨床に採り入れられている。しかし、治療のオプションを駆使すれば保存可能な歯も多い。短絡的に抜歯しインプラントにするのはいかがなものか?あくまでも『インプラントはオプションの一つ』であり、唯一の手段ではないことを肝に銘じるべきである。『オリジナルな診療体系を作る』ためのいろいろな知識、技術を手に入れ、自分のものにして臨床を行っていこう。自分の考え・知識・技術と相談しながら自分の診療体系を確立させよう。いくら最新の治療技術を駆使しても自分自身に無理があれば、継続して良い結果は期待できない。今回も取り留めもなく話をさせて頂いたが、次回は後半の臨床のツボについて紹介させていただきたい。


北九州市開業
上田 秀朗 先生