近年、企業を中心にリスキリングという言葉が頻繁に使われるようになりました。「re-skilling=学び直し」ということで企業においては広く認知されているようですが、新たなスキルや知識を身につけ、急速な時代の変化に速やかに対応していくということを指しています。特に「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と呼ばれる、デジタル技術を用いることによる新しい業務の仕組みや、まったく新しい事業の出現に対応するために、我々人間も新たなスキルを身につけて対応しましょうということです。リスキリングを成功させるためには、誰か一人が頑張ればよいものではなく、組織全体あるいは企業全体で進むべき方向を定めて取り組む必要があります。それぞれが気の向くままにスキルを身につけるのではなく、将来を見据える中で組織全体において何が必要かを考え、そのためにどのようなスキルを得る必要があるかということです。いずれも組織ぐるみで取り組み、業務効率の向上や新しい分野での事業開発につながることを期待しているところです。

日進月歩の医療分野に置き換えますと、歯科医師の先生方は、新たな治療方法の習得や治療技術の進歩に対応するべく学会に所属し、スタディーグループで研鑽を積み、日々新たなスキルを身につけておられます。デジタル化に対応する意味ではないにせよ、いうまでもなく日常的に「リスキリング」を行っているといえるのではないでしょうか。それら新たに学んだ技術や知識を、臨床において活用する上で大切なことは、リスキリングの成功と同じように、院長一人が頑張るのではなく医院全体で取り組む体制を作る上げることにあります。新しい治療方法を取り入れるためには新たな機器や設備が必要です。取扱い方法やメンテナンスの仕組み作りにとどまらず、保管場所の選定や保管方法の習得まで、実際に取扱いを行うスタッフを含めて対応を考える必要があります。各々が独自に取り扱い方法を身につけるのではなく、業務に携わる誰もが同じようにスキルの習得を図ることにより、より合理的な方法が生まれ、より効率のよい取り組みが発見されることにつながります。

一方注意すべき点として、人は環境が変わることに強く抵抗を示すことが多いものです。今より仕事が増えるのではないかという不安、あるいは効率化によって自分が担う仕事がなくなるのではないかという不安など、スタッフは今ある状況が失われるのではないかということに意識が向きます。そのことが今後働く上でのモチベーションの低下につながらないように、新たな分野に挑戦することの意味、同時にリスキリングを行う必要性を丁寧に伝えていく必要があるのです。よりよい歯科医院にするために、目指す次のステージを明確にして、医院全体で一緒に取り組むことを意識してもらうことが必要です。学んだ技術や知識が臨床の中で活かされるということは、単なる知識や技術の導入ということではなく、日々変化する患者さんの希望に応えることであり、ひいては自分のスキルアップのために学ぶことでもある、つまりはリスキリングであるということを強く意識して取り組んでほしいと思います。


デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮 氏