(1)        概要

消費税は、平成元年に日本で導入された税金で、最も身近な税金といっても過言ではありません。矯正歯科のように自由診療メインで診療されている歯科診療所については消費税の課税事業者に該当して消費税を申告納付しているケースは多いと思われますが、社会保険診療メインで診療されている歯科診療所においては消費税の納税義務のない免税事業者に該当する場合が多く、申告納付も必要ないためあまり影響がないように思いがちです。しかし、消費税率の引き上げに伴い診療報酬の一部が引き上げられたり、薬価・歯科材料等の実勢価格が改定されるなど、少なからず歯科診療所の経営に影響を及ぼしております。
自由診療メインの歯科診療所では消費税の納税義務者である場合が多く、社会保険診療メインの歯科診療所では消費税の納税義務者とはならない場合が多い、なぜこのような違いが生じるのでしょうか。本稿では、消費税の課税事業者となるのか否かの峻別について、このような取り扱いの違いが生じる理由を述べたいと思います。

(2)        基準期間について

消費税の納税義務者となるか否かの判定は、基本的に基準期間における課税売上高により行います。基準期間とは原則として次の通りです。※注

  • 個人・・・判定する年の前々年
  • 法人・・・判定する事業年度の前々事業年度

この基準期間における課税売上高が1,000万円を超える場合には課税事業者に該当して消費税の申告納付の義務がありますが、1,000万円以下である場合には、免税事業者に該当して消費税の納税義務が免除されます。

(3)        課税売上高について

消費税法では国内において事業者が行った事業として、対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供に対して消費税を課すると規定されています。一方で、本来的には消費税の課税対象ですが社会政策的な配慮など一定の理由により消費税が課税されない取引も13項列挙されており、その中に健康保険法等に基づく療養が含まれています。これにより、保険適用内の治療については、消費税が非課税となります。また、自由診療による治療については、基本的に健康保険法等に基づく療養には該当しないため消費税の課税対象となります。この消費税が課税対象となる収入を課税売上高と言います。課税売上高には自由診療収入のほか、通常の資産の譲渡に該当する歯ブラシなどの物品の販売、金属の売却等があります。

(4)        取り扱いが異なる理由

このように自由診療メインの歯科診療所では収入のうち課税売上高の占める割合が多いため消費税の納税義務者に該当する場合が多く、社会保険診療メインの歯科診療所については収入のうち非課税売上の占める割合が多いため消費税の納税義務がない免税事業者に該当する場合が多くなります。歯科診療所によって行っている診療内容は様々ですが、大別するとメインとして行っているのが自由診療か社会保険診療かによって消費税の取り扱いが異なり、それによって消費税の納税義務の有無が異なるということになります。

※注 消費税の納税義務の判定については様々な特例があります。今回は納税義務者についての概略を説明するために原則的なケースを前提としています。実際に消費税の納税義務について検討される際は専門家に相談されることをお勧めします。


税理士法人 和田タックスブレイン 代表税理士
髙田 幸史 先生