
1.概要
歯科業界のみならず、全国的に人材確保が厳しさを増すなか、企業は様々な形で人員を確保しようとしています。業務委託(いわゆる外注)という形で人材を確保するケースもその一つです。基本的に、従業員と雇用契約する場合は「給与」、業務委託契約する場合は「外注」となります。一見すると従事している内容は変わらないかもしれませんが、税務の面においては異なる取扱いとなるため慎重な判断が必要となります。今回は歯科医院における「給与か、外注か」について判断のポイントと注意点について整理したいと思います。
2.税務上の取り扱い
給与を支払う場合には源泉所得税等の徴収や、年末に年末調整が必要となります。一方、外注費で処理する場合には、これらの手続は原則として必要ありません。ただし、形式的に業務委託契約を締結していても、実態が雇用契約と認められる場合には、給与として認定され、税務調査で源泉徴収漏れを指摘されるリスクがあります。この判断では、勤務時間や場所の拘束、指揮命令関係の有無、報酬の算定方法といった実態が重視されます。 また、消費税の課税事業者である場合には、給与は消費税の仕入税額控除の対象とはなりませんが、外注費は消費税の仕入税額控除の対象となるため、結果として消費税の納税額が軽減されることがあります。
3.判例における取り扱い
特に歯科医師を外注として取り扱う場合については注意が必要です。医師の報酬が「給与か、外注か」争われた最近の裁判例(名古屋地裁令和5年6月22日判決、控訴審は原審支持、上告棄却)では、形式上は業務委託契約であっても、勤務日時の指定、設備の提供、医療事故リスクの帰属などを踏まえ、「指揮命令下での労務提供」として給与に該当すると判断されています。すなわち、医療行為が個人の資格に基づくものであっても、医療機関の管理下で行われる以上、独立した事業と認められる余地は限定的であり、外注として取り扱うことには相応のリスクが伴う点に注意が必要です。
4.医療法における取り扱い
さらに重要なのが医療法における取り扱いです。医療法第15条は、診療所の管理者に対し、当該医療機関を適切に管理し、医療の安全を確保する義務を課しています。この趣旨からすれば、診療に従事する医療従事者は、管理者の指揮監督下において一体として医療を提供することが前提とされています。このため、例えば歯科衛生士についても、歯科医師の指示のもとで業務を行うという性質上、独立した事業者として外注化することは制度との整合性を欠くといえます。すなわち、医療法上も外注という形態については管理体制との関係で慎重な検討が必要となります。実質的には医療法における外注という判断は非常にハードルの高いものと言えます。
5.労務面における取り扱い
労務の面においても注意が必要です。外注としながら実態が給与(雇用)と判断された場合には、社会保険や労働保険の未加入が問題となります。社会保険の調査が行われた場合には、遡及して社会保険料負担が発生する可能性もあります。また、給与と認定された場合には、未払残業代の問題や有給休暇の問題など様々な問題にまで波及する可能性もあります。
6.まとめ
業務委託による人材確保は人材不足への対応策として、いまや必要不可欠な方法となっています。歯科医院におけるスタッフへの支払が、給与に該当するか外注に該当するかによって、税務のみならず法務・労務の面からも複合的にリスクが生じると言えます。契約形態にかかわらず、業務の実態を適切に判断し、法制度との整合性も踏まえた総合的な判断が必要となります。
*人材確保のために業務委託を検討される場合は、上記のリスクを踏まえて専門家と相談して適切な判断をするようにしてください。
税理士法人 和田タックスブレイン 代表社員税理士
髙田 幸史 先生