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第4回 玄関先での、他職種との立ち話

〇〇さんが退院され、ご自宅での訪問診療が始まって1か月。3回目の訪問でお宅の前に車を止めると、ちょうど訪問看護師さんが玄関から出てくるところでした。「あ、先生。いまちょうど終わったところです」「僕もちょうど今から。ちょうど入れ違いで良かったです」こうしてちょうど入れ違いになる瞬間こそ、在宅多職種連携のリアルな姿です。

玄関先でのほんの一分の立ち話。「〇〇さん、お食事の様子、どうですか?」「毎日のお口のケア、ちゃんとできてますよ」「歯茎、少し腫れが引いてきた感じですね」「そうそう、先生、ちょっと相談があって・・・」― 短い時間に、驚くほどの情報が詰め込まれます。公式なサービス担当者会議も大切ですが、こうしたすれ違いざまの数十秒の立ち話が、連携の血流を作っている面もあるのです。

さて、この「ご自宅での訪問診療」について、皆さんに一つ知っておいていただきたい現実があります。在宅(個人宅)への歯科訪問診療は、需要の20%も満たせていない ― 中医協の資料で示された数字です。施設への歯科訪問はおおむね需要が満たされている一方、ご自宅で歯科訪問診療を受けられている方は、必要とされている方の5人に1人にも満たないのです。一人暮らしの高齢者、老老介護のご家庭、看取り期を自宅で迎えたいと願う方々 ― こうした方々のお口に、歯科はまだ届いていません。

この現実を踏まえ、令和8年度診療報酬改定では、歯科訪問診療1(個人宅への訪問)に、在宅療養支援歯科診療所の加算100点が新設されました。一方、同一建物への複数人の歯科訪問診療は減算の方向です。施設訪問を否定するものではなく、「おおむね行き届いた領域から、まだ届いていない領域へ」という資源配分のシフトを促す改定と言えるでしょう。

そして、在宅が本丸になるということは、在宅ならではの多職種協働が問われるということでもあります。主に関わってくださるのは、訪問看護師さんと訪問介護の方々、それにケアマネさんと在宅医の先生。毎日のお口のケアや義歯の管理を担ってくださるのは、ご家族、そして訪問看護師と訪問介護の方々です。この方々と顔の見える関係を構築し、チームを組めるかどうかが、在宅歯科医療の成否を分けます。

さらに、在宅の現場では、管理栄養士や言語聴覚士が稀有な存在ですので、歯科医が栄養や嚥下の視点まで含めて関わる必要があります。「最近ちょっとムセが増えてきました」という訪問看護師からの一言に、歯科としてどう応じられるか ― 口腔機能だけでなく、食べること・暮らすこと全体を視野に入れた診療が、在宅では求められるのです。


広島県福山市開業
猪原 健 先生