
大学を卒業して7年間勤務医を経験したのち、私は居抜きで歯科医院を開業した。ところが、そこにはほとんど触ったことのなかった総義歯症例が山のように押し寄せてきた。書籍を片っ端から読みあさり、あらゆる手法を試してはみたものの、「これが正しいのか?」という自信はまったく持てなかった。
そんな時に巡り合ったのが、下顎吸着義歯で名を馳せていた阿部二郎先生のハンズオンコースだった。しかも幸いに、その実習で登場した患者さんは、なんと当院の患者さん! 私は翌日にさっそく阿部先生直伝の印象採得を試すことができた。「新しい技術は1週間後には忘れてしま う。だからすぐに試すことが大事」—この体験でその信念が確信に変わった。そして、初めて“吸着”を実感した瞬間、私の中のスイッチが完全に入った!
そこから始まったのは、阿部先生の講演を追いかける日々。全国各地に足を運び、ご挨拶を重ねるうちに顔を覚えていただき、やがてJPDAというスタディーグループに誘っていただいた。当時のメンバーは30名ほど。すでに義歯で講演活動を行う猛者ばかりで、私に向けられる視線は「こいつ誰?」というものだった。阿部先生ご本人からも、当初は口をきいていただけない。無力さと未熟さを痛感する苦い数年だったが、それでも続けたのは、入れ歯の技術を超えて人生を深く考えさせられる場だったからだ。
そして転機は2015年、ドイツのエルランゲン大学との交流会。末席にいた私に、突然の症例発表のチャンスが巡ってきた。しかし、緊張で覚えた英語は一瞬にして吹っ飛び、カバンから原稿を引っ張り出しての棒読み。会場の空気は「終わったな…」。自分でも終わったと思った。だが、 不思議なことに「海外で挑戦すること」の魅力は諦めきれなかった。
そこで決めた!!毎日昼休みにWeb英会話を続けること。そして阿部先生の海外活動には必ず同行すること。 Rarejobなどのオンライン英会話は、マンツーマンでも月6000円程度と格安。院長室で受けられるのも都合が良かった。夜の誘惑を避け、昼休みにハイテンションな英語を話し続 けた結果、スタッフからは「院長の昼間のフィリピンパブが始まった」と言われていたらしい、、、それでも気にせず継続した。
そして10年後。私は世界中のインストラクターの中でチーフインストラクターを任され、阿部二郎先生の後継者として海外で活動するまでになっていた。
富山県射水市開業
山崎 史晃 氏