アイルランド・ダブリンでSEMCDシンポジウム開催

2025年8月15~16日、アイルランド・ダブリンにてSEMCDシンポジウムが開催された。阿部二郎先生が提唱した下顎吸着義歯(SEMCD)は、いまや世界に広がり、47名の外国人インストラクターが活動している。今回のシンポジウムでは、そのトップインストラクターたちが集い、最新の知見と臨床成果を披露した。

トップバッターを務めたのは、主催者でもあるアイルランドの義歯専門医・ポール氏である。私は 2016年に阿部歯科医院で彼と出会った。当初はまだ経験不足の印象もあったが、帰国後も弛まず 努力を重ね、症例写真を欠かさず送ってくれる姿勢に感銘を受けてきた。いまや世界でも屈指の美しい印象採得を行える臨床家となり、今回はその集大成とも言える鮮麗な臨床写真の数々を披露した。

ポーランドのヨセフ氏は「義歯オタク」と呼ぶにふさわしい徹底ぶりである。朝から晩まで義歯の話をし、大学の解剖学教室に通い詰め、義歯解剖学の専門書まで出版した。3Dプリントされた顎骨模型にワックスアップを施した臨床写真は、参加者を驚かせた。

オーストラリアのピーター氏は、9年前からデジタル義歯に取り組み、現在では全総義歯症例をデ ジタルで行う先駆者であり、3shape社のオピニオンリーダーとして活躍している。私は8年前か らデジタル義歯に取り組んでいるが、疑問があれば彼に相談し、実際に彼のクリニックを訪れて学 んできた。彼の「一緒に始めた皆は途中で諦めちゃったけど、私は、ずっと研鑽し続け、結果トッ プランナーになっていた」との話は、私にとっても大きな励みになった。

ニュージーランドのジョン氏は70歳にしてなお挑戦を続け、国内最大規模のデンチャークリニッ クグループを経営している。今回の滞在では彼と同室で過ごし、その温厚な人柄に支えられ快適で 楽しい旅となった。

イギリスのディーン氏は、Exocadのエキスパートであり、審美性に優れたデジタル義歯の製作法 を紹介した。デジタル義歯は従来法義歯に比べて審美性に劣るとする報告もあるが、彼の症例は その評価を覆し、会場を大いに魅了した。

最後に私は、吸着義歯のメカニズムと、8年間のデジタル義歯臨床を通じて最も有用と感じている 「3Dプリントによる試適義歯」について講演を行った。 各演者の講演から得た知見はもちろんのこと、互いをリスペクトし合う姿勢そのものにも深い学びがあった。

本連載では、私自身のSEMCDとの出会いから、国際チーフインストラクターに至るまでの20年の歩みを振り返り、その過程で得た学びと挑戦を紹介していきたい。


富山県射水市開業
山崎 史晃 氏