業種を問わず人材不足が経営課題となっている事業所は多く、帝国データバンクが公表している2025年4月の資料では、人手不足を感じている事業所の割合が全体で51.4%となっています。「医療・福祉・保健衛生」分野においてはさらに高く60.0%となっており、2024年4月の57.7%から大きく上がってきています。ハローワークの一般職業紹介状況でも、令和7年7月分の有効求人倍率は1.22倍、新規求人倍率は2.17倍といずれも高い水準で推移している状況です。AIが発達してきているとはいえ、医療・福祉など労働集約型の事業所においては人手が必要であり、チェアーなどの設備は充実していても、勤務医や歯科衛生士がおらず患者さんを受け入れられないことが続く現状です。それでも人材を確保するための近道は、労働環境を整備することのほかはないと考えます。

歯科医院の労働環境整備において大きくポイントとなるのは、①社会保険への対応、②有給休暇の取得状況、③労働時間管理、についてどのように対応しているかということです。給与や賞与などの賃金水準はもちろん重要な要素ですが、毎日を過ごす場所として労働環境が整い、スタッフから選ばれる水準にあるかどうかが大切です。歯科医師国保や厚生年金など社会保険の整備はもとより、有給休暇の取得促進も大きな課題です。労働時間に対する意識の高まりに合わせて診療時間を変更する医院もありますが、残業など時間外手当への対応など一つ一つの確実な取り組みが、今後スタッフを確保する上での近道と言えるでしょう。

医療法人や常時雇用するスタッフが5人以上となる個人歯科医院など、社会保険の要件を満たす規模の歯科医院においては、特に歯科衛生士などの人材を獲得する上で、組織運営として医院の体制を整備することが必須と言えます。給与水準を維持しながら社会保険料負担に対応するために、人件費予算を考えた年度計画を立てることが重要です。給与・賞与のほか大きな法定福利費や福利厚生費がかかるとはいえ、人材確保が進めば医院収入の確保に目処をつけることができます。自医院の診療方針を基に人員計画を立て、人員の補充、増員に向けて労働環境整備を進めてください。

こうした取り組みは、収入規模が比較的大きな歯科医院であれば積極的に推進できますが、スタッフ数人で診療する小規模の歯科医院では、これに代わる「働くメリット」を打ち出す必要があります。いわば家族経営といえる状況においては、院長との人間関係がすべてと言っても過言ではありませんから、一度確保したスタッフにいかに長く勤めてもらうか、大袈裟に言えば、院長が診療から退くときまで共に勤め続けてもらえることを目標とします。給与水準はそれほど高くなくても、結婚や出産を経た後も復帰できる環境があれば、安心して家族の成長を楽しみながら長く安定して働くことができるのです。


デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮 氏