経済雑誌「東洋経済」が会員向けに提供する記事の調査資料によると、消費者の67%はカスタマーサポートとのやり取りをAIアシスタントに代わりにやってほしいと望んでいるということです。相手が人であるがゆえに不適切な対応が生じ、時にコミュニケーションのミスにより不快な気持ちになることがありますが、今後、AIテクノロジーが飛躍的に進歩し、スムーズなコミュニケーションができるようになればなるほど、AIが人に代わってより好ましい回答を返してくれる場面が増えることになるのでしょうか。

歯科医院においてコミュニケーションのミスが発生する最初の場所として、受付担当者による電話対応があります。電話を受ける担当者が、的確に患者さんの意図を汲めないことがすべてではなく、患者さん自身も自分の意図を正確に伝えることができず、意思の疎通がうまく行われないことも一因としてあります。

そういった患者さんとの意思確認を確実に行うために、毎回の通話を録音する歯科医院があります。企業のカスタマーセンターなどに電話をするとよく流れてくる、「品質向上のために通話を録音させていただいております」という内容と同様ですが、実際、結構な頻度で通話録音を聞き直して、患者さんとの正確なコミュニケーションの取り直しを行っています。

経済産業省ではGENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)というプロジェクトを立ち上げ、生成AIをより実際の業務に活用できることを目指し、開発を促進する懸賞金活用型プロジェクト「GENIAC-PRIZE」を今年の5月9日から開始しました。生成AIにより解決が望まれるテーマの一つに「カスタマーサポートの生産性向上」があります。その他には「製造業における暗黙知の形式知化」「官公庁における審査業務(特許審査業務をモデルとする)の効率化」「安全性向上に資する技術開発」があり、実際に現場で活用できるレベルでのAI開発を促しています。2045年頃には、発達を続けたAIが人間の知能を上回る時期がくる(シンギュラリティ)と予想されていましたが、中にはすでに到達している、あるいは2030年代に早まると考える専門家もいるようです。

このように、AIの発達や普及は技術の進歩であり時代の流れではありますが、人の体を扱う医療において、コミュニケーションが人と人であることは、改めて大切なことではないかと思います。選択する治療方針をはじめとして、アポイントの取り方や投薬の考え方など、業務の隅々まで院長の考えがスタッフに浸透することで医院の一体感が生まれます。AIにより業務の効率化が図られることは好ましい面もありますが、そつのないAIとのやりとりに慣れてしまうと、消費者(患者)はますます人に対して身勝手になり、思い通りに行かない人に対して過度な不満を抱く危険性があります。

人間らしい取り組みが患者さんからの永続的な信頼につながるのが医療だとすれば、言葉を交わす中で生まれる温かさや思いやりは、人と接するコミュニケーションからしか生まれないことを改めて認識し、人とAIがうまく共存していくことが大切と思います。


デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮 氏