
令和6年版厚生労働白書(令和5年度厚生労働行政年次報告)においては、「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」というサブタイトルとともに、こころの健康、こころの不調についてのテーマが取り上げられています。
学校、地域、職場や自らを取り巻く社会など、複雑に絡み合う環境の中で、自分のこころとの向き合い方やこころの健康づくりに焦点をあてた内容となっています。
歯科医院の現場においても、職場環境に馴染めないまま心身に不調をきたし、1ヶ月の休養を要すると記載された診断書を手に、休職や退職を申し出る従業員がいます。そういった場合は、面談により現状を聞き、今後の過ごし方や対応などについて話し合いを行いますが、一度職場から離れてしまうと、元通りに復帰して以前と変わらない日々を過ごすことが難しいことがあります。令和5年労働安全衛生調査における、仕事や職業生活に関するストレスの状況をみると、強い不安や悩み、ストレスと感じる要素の上位は、「仕事の失敗、責任の発生」(42.9%)、「仕事の量」(41.2%)、対人関係(29.6%)となっていますが、慢性的な人材不足による業務量の集中や、従業員一人にかかる相対的な負担の増加などが、心身の状態に大きく影響を与えている現状なのかもしれません。
従業員一人の力が大きな影響力を持つ歯科医院において、貴重な人材として安定的に従業員を継続雇用し、一人一人の人材が長く勤め続けることができる職場づくりに向けて、現在多くの歯科医院では職場環境の改善に取り組んでおられるところでしょう。企業に負けない給与水準の引き上げや社会保険完備などの福利厚生の充実、あるいは労働時間の見直しや有給休暇の取得促進など、労働基準法の遵守に向けて、さまざまな対応が進んでいます。その中でさらに従業員が安心して働き続けるために、自らのストレスの状況を把握し、深刻な状況になる前に話をすることができる環境づくりにも意識を向けていく必要があります。どのような職場においても、すべてを満たすことができる環境はなく、皆それぞれに折り合いをつけながら職場と向き合っていますが、気軽に話ができる雰囲気やお互いの状況を共有できる環境は、こころのバランスを取るために大変重要な要素となるでしょう。
厚生労働省では、働く人のメンタルヘルス・ポータルサイトとして「こころの耳」というサイトを開設し、本人、家族、職場、同僚それぞれがこころの問題に向き合えるようになっています。セルフチェック等を使いながら、自分の状態や周囲との関りなどについて把握することは安定感を維持することにつながります。現在、どの業種の話を聞いても、口を衝いて出るのは人材不足の問題ですが、今ある力で最大のパフォーマンスが発揮できるように、スタッフとともにこころの健康づくりの時間を持つことは大切と思います。
デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮 氏