
令和8年度診療報酬改定は、医科歯科連携に関わる項目が数多く盛り込まれた改定となりました。医科連携訪問加算の新設、周術期口腔機能管理中のSPT算定、在宅療養支援歯科診療所の加算、歯科衛生士による口腔機能管理の重点化・・・、こうして並べてみると、一見バラバラに見える改定項目の背後に、一つの明確なメッセージが浮かび上がります。それは、「歯科は、もっと医療の中に入ってほしい」という国からのメッセージです。
これまで歯科は、他の医療分野からどちらかといえば独立した存在でした。歯科医院という自分の城の中で、来られた患者さんを診る・・・。もちろん、歯科訪問診療や病診連携に取り組んでこられた先生方は多くいらっしゃいます。しかしそれは、あくまで「先進的な取り組み」という位置づけであり、業界全体の標準ではありませんでした。
令和8年度改定は、この構図を明確に変えようとしています。病院の中にも、周術期も、退院時のカンファレンスにも、在宅の多職種チームにも、地域の高齢者の口腔機能管理にも、歯科がより深く関わっていくことが、制度として評価される時代に入ったのです。
背景にあるのは、言うまでもなく地域包括ケアシステムの本格化です。住み慣れた地域で最期まで自分らしく暮らし続ける・・・。この理念を実現するためには、口腔と全身をつなぐ視点、食べることを支える視点、感染症を予防する視点が欠かせません。そのどれもが、歯科の関わりなしには成立しないのです。
もちろん、歯科訪問診療という領域に対して、業界内でも様々な見方があることも事実です。ただ、実際に足を踏み入れてみると、そこには他職種と共に一人の患者さんを支えるという豊かな学びの場があります。医師、看護師、管理栄養士、言語聴覚士、ケアマネジャーなど、多くの専門職と関わる中で、私たち歯科医師自身が育てられていく側面も大きいと思います。訪問診療は、決して「歯科の外周にある特殊な業務」ではなく、これからの歯科医療の中心の一つになっていくものだと感じています。
とはいえ、制度が背中を押してくれるからといって、明日から急に何かが変わるわけではありません。地域包括ケアの中に歯科が根付いていくためには、日々の一つ一つの積み重ねが必要です。地域の医師会や病院との顔の見える関係を築くこと。ケアマネジャーや訪問看護ステーションと連絡を取り合うこと。院内の歯科衛生士に研修の機会を作ること。そして何より、目の前の患者さんお一人お一人に、これまで通り丁寧に向き合い続けること。
医科歯科連携という言葉が、いずれ特別な言葉ではなくなる日が来るはずです。地域の中で、当たり前に歯科が関わっている・・・、そんな未来を、皆さんと一緒に築いていければと思っております。
半年にわたる連載、お読みいただき誠にありがとうございました。
広島県福山市開業
猪原 健 先生