厚生労働省が発表する全国の令和7年(2025年)度の最低賃金が出揃い、地域別最低賃金の全国加重平均額が前年比66円アップの1,121円となりました。今年度の改定で、初めて全県において最低賃金額が1,000円を上回ることになりましたが、注目すべきはその引き上げ率です。もっとも高い引上げ率は熊本県の8.6%(引上げ額82円)ですが、引上げ率がもっとも低い東京都および神奈川県でも5.4%(引上げ額63円)となっており、令和6年度の全国加重平均額からの上昇率は約6.25%となりました。発表される最低賃金が時間額のため、どれぐらいの引上げ額なのかという実感を得にくいところですが、月給換算にすると20万円の給与として12,000円以上の引上げ額となりますから、歯科医院において、毎年この金額を昇給するとなれば人件費の負担が計り知れないものになります。

最低賃金付近の金額を初任給として提示している歯科医院においては、賃金表(給与表)の見直しを迫られることになりますが、難しいのは発効日の多くが10月になっていることです(*発行日の設定が都道府県に委ねられているため、11月や12月などもあり一律ではありません)。歯科医院からすると、一般的な昇給月となる4月ではない月に一気に6%以上もの引上げが起きると、臨時的に昇給せざるを得ない状況にもなりかねず、発効日に昇給月を変更したとしても、また来年の10月には新たな最低賃金が発表されて対応に追われてしまいます。最終的に政府がどこまでの引き上げを検討するかは、今後の情勢等により不透明ではありますが、ここ数年の極端な最低賃金の引き上げに対して歯科医院では相当の苦慮をされている状況かと思います。

とはいえ、現在はスマホ片手に容易に情報が得られる時代ですし、高校生の間でもアルバイト代が最低賃金をどれぐらい上回っているかということが話題に上るほどですから、人材を確保するためには、必要となる人件費を見積もった上で収支がどうなるかという事業計画を立てることを余儀なくされています。対策として歯科医院が行なうべきことは、スタッフの労働効率をどう上げていくかということです。少ない人数で最大限の働きを得るためには、より一層院内でのスタッフ同士の連携が必要になります。これまで慣例的に行ってきた業務を見直してみると、実は優先順位が低い内容であったり、業務が重複するものであったりすることに気が付きます。また、スタッフのシフトの重複によって無駄な人件費がかかっている場合がありますが、勤務シフトの最適化を図るために、診療時間や勤務時間などの抜本的見直しを行うことも対策の一つです。

歯科医院は多くの場面で人の手を必要とする労働集約的な業種ゆえ、スタッフが長く勤めながらスキルを上げられる環境づくりが、もっともコスト削減に繋がり経営を安定させる要因となります。短期的には、賃金上昇に伴う人件費増加を補うための助成金や補助金の活用を検討し、長期的には歯科医院の経営体制の見直しを視野に入れ、将来、歯科医院が継続して存続するための準備を重ねることが大切です。


デンタル・マネジメント・コンサルティング
門田 亮 氏