(1) 概要

歯科医院の建物やユニットチェア、CTスキャナ、各種備品類など、時の経過に伴い価値の減少する資産を減価償却資産と呼びます。これらは原則として取得時に取得価額の全てが経費とはならず、その資産の種類に応じた耐用年数に基づいて価値の減少に対応する金額分だけ経費(減価償却費)として計上されます。一方で、減価償却資産の中には一定の要件を満たせば取得時に全額を経費として計上できるものもあります。経費化できるかどうかは特に税金面で資金繰りに直結するため、設備投資計画における意思決定プロセスにも影響を与えます。そこで本稿では、減価償却資産のうち、一括で経費として処理することができるものについて述べたいと思います。

(2) 少額の減価償却資産

いわゆる消耗品類など使用可能期間が1年未満のものや、取得価額が1単位当たり10万円未満のものについては、その取得価額の全額を経費として計上できます。1単位とは、例えばセットの机と椅子など、1セットで機能を果たすようなものを指します。そのため、例えば椅子単体で10万円未満であっても少額の減価償却資産とはならない点に注意が必要です。具体的には、ユニットチェアの部品の一部が10万円未満であったとしても、一体としてユニットチェアを構成するものとなりますので、ユニットチェア全体で金額判定を行います。なお、貸付用のものは除かれます。

(3) 中小企業者等の少額減価償却資産

青色申告書を提出している中小企業者等は、取得価額が30万円未満の減価償却資産についてはその全額を経費として特例で計上できます。ただし、この特例が適用できるのは、その事業年度中に合計で300万円(事業年度が1年未満の場合は月按分)までとなります。そのため、多額の投資を行う場合は年度をまたいで計画的に購入を検討することも一考です。なお、上述(2)と同様に30万円未満であるかどうかは1単位ごとで判定し、貸付用のものは除かれます。また、上述(2)と異なる点として、中小企業者等の少額減価償却資産は確定申告書に明細書を添付する必要があるほか、固定資産台帳にも記載され、償却資産税(固定資産税)が課税されます。なお、償却資産税は課税価格が150万円以下であれば申告不要(免税)となります。

(4) 一括償却資産

取得価額が20万円未満の減価償却資産については、3年間で均等に減価償却できる特例があります。上述(3)のように全額を経費に計上はできませんが、固定資産税(償却資産税)は課税されません。上述(2)、(3)と同様に20万円未満であるかどうかは1単位ごとで判定します。

(5) 一括で経費化するメリット

原則として、減価償却資産を自己資金で取得した場合、取得時にキャッシュアウトする一方で経費になるタイミングは耐用年数に応じて将来に繰り延べられます。そのため、取得した事業年度はキャッシュアウトした上に、その取得価額のうち減価償却費として一部しか経費にはならないことになります。可能な限り減価償却資産を即時にあるいは早期に経費化することで、税金を抑えて手元にキャッシュを残し、そのキャッシュを他の設備機器や人的資源に投資するなど、自院の成長と発展に活用できる点でメリットがあるといえます。

(6) 消費税について

本稿における金額基準(10万円、20万円、30万円)については消費税の経理処理によって取り扱いが変わってきます。税込経理の場合は消費税込みで上記金額となる一方、税抜経理の場合は消費税抜きの金額となります。例えば、税込20万円(うち消費税18,181円)の減価償却資産の場合、税込経理の場合は20万円が基準となり、税抜経理の場合は181,819円が基準となります。このように消費税の経理方法によって特例が適用できるかどうかの判断が変わってくる可能性もあるため注意が必要です。

※ 本稿で述べた特例を適用する場合には、顧問税理士など専門家に相談いただくことをお勧めします。


税理士法人 和田タックスブレイン 代表税理士
髙田 幸史 先生