
1:概要
歯科業界に限らず、どの業界においても人材確保は難しいのが現状です。例えば、歯科衛生士は免許登録者数314,143名に対して業務従事者数が145,183名であり、就業割合は46.2%程に留まっています(令和4年衛生行政報告例)。人材確保のため、多様化したライフスタイルに対応した柔軟な働き方の提供が求められています。また、人材確保を困難にする要因の一つに年収103万円の壁があります。年収103万円以下であれば所得税が課税されないため、その金額以下に抑えようと働き控えがされている現状です。今回は令和7年の税制改正により見直しが行われた年収の壁について述べたいと思います。
2:改正前と改正後
年収の壁については改正前と改正後で次のように変更があります。
・・・ | 改正前 | 改正後 | 増加額 |
---|---|---|---|
基礎控除 | 48万円 | 95万円 | +47万円 |
給与所得控除 | 55万円 | 65万円 | +10万円 |
年収の壁 | 103万円 | 160万円 | +57万円 |
改正前は、年収が103万円であれば、給与所得控除と基礎控除額を差し引けば課税所得がゼロとなるため、所得税が課税されませんでした。改正後は年収160万円の壁になります。給与所得控除は65万円に引き上げられ、基礎控除額は最大95万円となり、合計額160万円までは所得税が課税されない取り扱いとなります。
3:実務への影響
基礎控除・給与所得控除が変更になると給与計算で源泉徴収する金額が変わることになりますが、令和7年分の所得税の計算は、年末調整により対応することとなります。そのため、毎月の給与計算における源泉徴収税額の変更は不要です。ただし、令和7年に関しては年末調整による給与所得者への還付税額が増加することが予想されるため資金繰りに注意が必要です。なお、令和8年分以降は毎月の給与計算で源泉徴収する金額が変更となります。
4: 年収160万円の注意点
年収の壁160万円は所得税に対するものであり、住民税や社会保険の負担については別に考慮する必要があります。具体的には、所得税については今回の改正で年収160万円以下であれば課税がされませんが、住民税については原則として年収110万円以上の場合は課税されます。社会保険については原則として年収130万円以上で加入が必要となります。
5:働き方への影響について
今回の税制改正によりある程度の働き控えの解消が見込めますが、上述の通り住民税や社会保険料の負担が増加するため、実際には110万円の壁、130万円の壁が残る形になります。特に社会保険に関しては加入により手取り額の減少幅が大きいため、年収130万円は特に意識されると思われます。社会保険の加入に伴う事業主負担の増加も要注意です。
6:配偶者手当等への影響について
配偶者が勤務されている企業で「住宅手当」や「家族手当」などが支給されている場合には、これらの手当の条件として配偶者控除の適用対象とされていることもあります。年収160万円まで増加した場合、配偶者控除の適用を受けることができなくなり、支給が停止となる可能性があります。
※ 本稿で述べる年収は、給与所得者の年間における給与収入を指します。また、今回の税制改正では所得2,350万円までの方に影響がありますが、本稿では所得税が課税されない160万円の年収の壁に絞って説明しています。
税理士法人 和田タックスブレイン 代表税理士
髙田 幸史 先生