(1) 概要

経営において収支のバランスは極めて重要です。これは歯科経営においても例外ではなく経営を維持していくには収支のバランスを取り、利益を計上することが必要であることを意味しています。様々ある財務分析の1つにCVP分析があります。本稿では、歯科経営におけるCVP分析について述べたいと思います。

(2) CVP分析について

CVP分析のCVPとは、Cost(費用)Volume(販売量)Profit(利益)の略です。CVP分析とは利益を確保するためにこれらの関係を分析する手法です。損益分岐点分析ともいわれ、売上がいくらあれば利益が確保できるかを求めるのに活用されています。分析を行うにあたっては、まず費用を固定費と変動費に分類します。固定費は売上の増減に関係なく発生する費用であり、変動費は売上の増減に伴って変動する費用です。一般に利益は売上から費用を差し引いて計算しますが、売上から変動費を差し引いたものを限界利益といいます。限界利益とは固定費を回収し利益を生み出す源となります。

(3)歯科医院におけるCVP分析

歯科医院における変動費は歯科材料費や歯科技工委託料などがこれにあたります。診療収入に占める割合は診療内容によって変動しますが歯科材料費が概ね8~11%程度、院外技工の歯科技工委託料が概ね7~8%程度と考えられます。一方で固定費は人件費や設備関連費(減価償却費など)、地代家賃、水道光熱費などが該当します。歯科医院におけるCVP分析の活用場面として想定されるのは「1か月に何人の患者を診察すれば黒字化できるか?」や「チェアを導入した場合の損益分岐点はどうなるのか?」などです。

(4) 歯科医院におけるCVP分析①

上記の「1か月に何人の患者を診察すれば黒字化できるか?」について具体的な数値を使って説明したいと思います。

 ①患者1人あたりの診療収入 8,000円

 ②患者1人あたりの変動費(15%) 1,200円 (変動費率 15%)

 ③患者1人あたりの限界利益(①-②) 6,800円 (限界利益率 100%-15%=85%)

 ④固定費 月額1,700,000円

上記の数値より患者1人を診察すると6,800円の限界利益が得られます。この限界利益で固定費を賄うことができる診療収入を損益分岐点売上高と言います。すなわち、損益分岐点売上高を超えれば黒字になります。損益分岐点売上高は固定費を限界利益率で除して求めることができます。すなわち、1,700,000円÷85%=2,000,000円です。言い換えれば、2,000,000円の診療収入に対して限界利益率85%を乗じて1,700,000円の限界利益を算出し、これが固定費1,700,000円を回収できるということになります。診療収入2,000,000円で患者1人あたりの収入は8,000円ですので2,000,000円÷8,000円で250人ということになり、1か月に250人超の患者を診察すれば黒字化できるということになります。

(5)歯科医院におけるCVP分析②

(4)の結果から損益分岐点売上高を下げるにはどうしたらよいでしょうか?方法としては大きく3つあります。

 ①患者1人あたりの診療収入を増やす

 ②患者1人あたりの変動費率を下げる

 ③固定費を削減する

①と②により限界利益率が増加します。③は限界利益で賄うべき固定費を下げることができます。例えば、利益率の高い自由診療の比率を増やすことにより①と②を達成することができます。また、仮に歯科技工委託の院内技工への切り替えについて検討する場合は委託料の減少により②の変動費率は下がりますが、歯科技工士を雇用する必要があるため③の固定費は増加します。そのため、必要患者数を再検討する必要があります。


税理士法人 和田タックスブレイン 代表税理士
髙田 幸史 先生